クィア短歌の世界

 こんにちは。最近、短歌にハマりはじめた川瀬みちるです。


 「君」と詠めば、「異性」の「恋人」と解釈されてしまうのが、短歌の伝統でした。短歌の難しさは、たった31文字で表現するためにそのような定型的な解釈をされてしまいやすいということでしょう。

 そのため、まずは作歌というよりも解釈の方を改めて過去の短歌を読み直すところからクィア短歌の試みはスタートしなければならないのかもしれません。

 一方で、明示的にクィアな関係性やアイデンティティを扱った短歌もあり、それらを読んでいくことも重要です。この社会で透明な存在にされがちなクィアを可視化するだけでなく、ジェンダー規範を揺るがして我々をエンパワーしてくれる可能性があるからです

 今回のブログでは、明示的に詠まれたクィア短歌をいくつかご紹介したいと思います。


鈍刀のこの漢愛しぬばたまの黒鞘抜いてわれに迫れり /塚本邦雄


 格調高く男性同性愛を詠んだこの歌は、「鈍刀」というところがいいなあと思います。

 作中主体は相手の漢(おとこ)が鈍い刀であることを知っていて、その上で愛(を)しく(文語で、かけがえのないものとして愛着を感じているさま)思っています。それにしても、鈍い刀なのに、なんだかかっこいい黒鞘(「ぬばたまの」は黒を導く枕詞)から抜いて作中主体に迫っているなんて、ちょっとコミカルでかわいいですね。

 塚本邦雄は、会員制男性同性愛サークル「アドニス会」にも三島由紀夫らとともに所属しており、日本初のゲイ雑誌「ADONIS」に別名で寄稿しています。


春の二階のダンスホールに集ひきて風をもてあますレズビアンたち / 睦月都


 『歌壇』2021年6月号に掲載されている連作「Dance with the invisibles」から一首。

 ずっと短歌の世界で女性同性愛は不可視の存在でした。男性同性愛は塚本邦雄などちらほら見られたのですが、そしてもちろん近年では同人で百合短歌が詠まれ始めている状況ですが、女性同性愛を詠んだいわゆる有名な(?)歌というのは、あまり思いつきません。それをinvisibleという連作のタイトルにこめたのでしょう。

 この歌からは、心地よい伸びやかな透明感を感じました。そして、その透明感には少しだけ切なさのようなものが混じっています。

 この連作のタイトルのinvisibleがレズビアンを指すとして、たしかにレズビアンたちは「風」のように透明になりかねない、「風」に吹かれて飛ばされてしまいそうな存在です。それでも、レズビアンはこの世に確実に存在しているのです。それを見えなくしているのは社会の在り方であり、それに疑問を投げかけるのがこの歌といえるでしょう。 


無性愛者のひとはやつぱりつめたい、とあなたもいつか言ふな だありや /川野芽生


 アセクシュアルは、女性同性愛以上に不可視の存在といえるでしょう。

 歌集『Lilith』に収められているこの歌は、無性愛者(アセクシュアルとルビあり)に向けられがちな偏見を描いています。

 「あなた」は作中主体にとってどのくらい親しい友人・知人なのかはわかりませんが、作中主体は「あなた」がありがちな偏見をいつか口に出すのではないかと内心で予想しています。効果的な一字空けに続く「だありあ」(ダリア)の花言葉はいくつかありますが、とりわけ「裏切り」というものがここでは当てはまるでしょう。華やかなダリアの花のイメージとその裏腹に強い語感が、読み手に衝撃を与えます。


おわりに


 いかがでしたでしょうか?  この他にも多くのクィア短歌がありますので、また随時ご紹介していけたらと思います。

 この企画の参加者にも文字書きが多いので、そのうち歌会でもできたらいいな~、なんて川瀬は秘かに企んでいたりもします。

 それでは、また!


 

 


























 

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