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食卓

杭谷

ある人は語る 

それは甘露にも勝るような甘さだと

ある人は語る 

それは苦杯を嘗めるかのような苦さだと

 

そのどちらも 

どれもこれも 

自分は知らない

 

それは 

それらは 

いつから現れたのだろうか

 

入れ替わり立ち代わり

人々が囲む食卓の上 

多くの食事が並ぶ

 

時に薄味 

時に柔らかく

時にかぐわしく

味付けも食感も匂いも様々

 

その一角に

ぽつりと生じた

摩訶不思議な食事

 

周囲の人々は

甘いやら苦いやら

好き勝手な感想を零しながら

 

時に情熱的に

時に破滅的に

その食事に手を伸ばす

伸ばさずにはいられないかのように

 

皆が皆

手を伸ばしては

口に運び咀嚼する

 

そうして気付くのだ

手を伸ばさないこちら側に

気付かなくてもよいものを

 

時に親切に

時に憐れむように

時に教えを授けるように

手にした食事をこちらに勧める

 

幼くはない

誓いではない

好き嫌いではない

 

食べられないものを

食指が動かないものを

どうやって食べろというのだろうか

 

思いをよそに

押し付けられる皿

差し出されるフォーク

突き付けられる言葉たち

 

それを食べずとも

自分は大人になれる

自分は生きていける

自分は満ち足りている

 

ただそれだけ

 

ただ

それだけだ

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